ここから始まる一連のシリーズでは、タイトル通りのことをM君にメッセージで聞いてみて、その返事で教えてもらったことを紹介します。
個人のメッセージBoxに埋もれさせておくにはもったいない!と感じたリッチな知見だったため、M君の許諾を得て、ブログ記事として書き残すことにしました。
メッセージを紹介する前提として、簡単にM君と私のプロフィールを書いておきます。
M君
- 将棋歴: アマ四段
- 私とは大学の学科同期で、同年齢。(メッセージのやり取りをした時点で50代)
私
- 将棋歴: ほぼゼロ。人やソフトとちゃんと対戦した記憶なし。駒の動かし方が分かる程度。
- 機械学習に興味があり、周辺技術を勉強中。ただし、強化学習については数時間動画を見た程度で、手を動かした経験無し。
やりとりのきっかけ
2022年1月上旬に私がM君から年賀状を受け取り、久しぶりにメッセージを書いて送ったのがきっかけです。
そのメッセージの中で、タイトルを総なめにする勢いの藤井聡太くんの強さを、将棋に詳しいM君がどう見ているのか、聞いてみました
- ググってみたら、(2022年1月時点では)B級1組だと知ったんだけど。来期A級に上がったら、七冠行けちゃいそう?
- 彼への対策についても激しく研究されていると思うんだけど、その研究が追いつかない/役に立たない状況なの?
- 彼はAIを使って研究しているだろうし、その将棋AIと関係が深い(と勝手に思っている)「深層強化学習」を僕自身がちょうど学んでいることもあって、関心を持っているんだけど。
- 彼がどれくらい抜きん出ているのか?の感触が、素人の僕には全く掴めないので、M君の考えや印象を教えてほしい。
M君からの返信: Day 1の前半 (2022/03/03)
私が送信したメッセージにしばらく返信がなかったので、もうこのメッセージツールは使ってないのかもな…と諦めて忘れかけていたのですが3月に入って長大なメッセージを送ってくれました。ビックリ!
以下、引用形式になっているのがM君のメッセージ内容です。それ以外の地の文は、記事作成にあたって私が後から付けた「合いの手」や補足、感想などです。
メッセージを貰いながら、返信しそびれていてすみません。
将棋はそれはもういろいろ書きたいことがたくさんあって、実は「藤井四冠で順位戦も決まり」と返信を書いていたのですが、出す前に千田七段に負けて怪しいことになってしまい、どう書こうか悩んでいて、そのまま返信しそびれてしまいました。そして、先ほど藤井五冠のAクラス昇級が決まりました。
結果論になってしまい、申し訳ないのですが、コメントさせてください。
そんな事情でメッセージを控えていたとは、なんと律儀な。
そして、1月上旬にすぐ返事をしてくれようとしてい頃は「藤井四冠」だったのに、実際に返事をくれた3月3日には「藤井五冠」になってる!! ということも読み取れます。
- 調べてみたら、2/12に「王将」を取ったんですね(参考記事)。なるほど。
M君のメッセージを続けます。
藤井五冠がどのくらい強いのかと言うと、将棋界の最高峰である名人のタイトルを持っている渡辺名人をもってしても今では全く歯が立たないのです。渡辺名人は、先日の王将戦も0-4のストレート負けでしたが、その可能性は高いと思っていました。
それは遡ること2020年度の棋聖戦第1局、藤井七段の初タイトル戦です。この対局は2020年度の将棋大賞、名局賞も受賞しており、YouTubeにもいくつかの解説動画がありますが、それはもうすごい終盤なのです。
ここでM君が書いている「2020年度の棋聖戦第1局」の解説動画ですが、ググってみて最初にヒットしたのが、こちら↓でした。
23分弱の動画で、始まってしばらくは素人の私が見てもさっぱり状況が掴めません。
ただ、徐々に見どころが多くなって、その分解説が丁寧になり、「どれくらい際どい選択だったのか」「プロが普通に発想する手を指したとしたら、どうなっていたか」といった危うさを素人でも感じ取れる内容になっていきます。
そして、14分頃からM君の言う「それはもうすごい終盤」が始まります。
渡辺棋聖は最後の決断で受ける手と、藤井玉を詰ます手、両方あるが、両方は読めないので、詰むと確信して、そこから30手以上の王手ラッシュを掛け詰ましに行きます。 解説動画を見ると、藤井玉は詰みそうなのに、奇跡的に詰まない手順があるのです。詰まない方が奇跡と言う感じです。
この手順は人間には不可能と断言できるほど難解で、たくさんの落とし穴があり、1つでも見落とすと藤井さんの負けです。
動画を見ていて、まさしくそんな感じでした。フラフラと自陣を離れて逃げていくように見える玉。待ち受けるたくさんのトラップ。
渡辺棋聖も最後まで詰む可能性を信じていましたが、何とギリギリ詰みませんでした。 投了後の感想戦で渡辺棋聖は藤井七段に「もしかして、読み切ってましたか?」と聞きました。
この奇跡的に詰まない手順を、人間が読み切れるとはとても思えないのですが、藤井七段は「ええ、まぁ」と答えて、渡辺棋聖も驚愕です。 詰まさずに受けたらどうだったか(渡辺棋聖は読むのを諦めた)を聞いたら、その手順も読み切っていた(=藤井勝ち)と知って二度ビックリ。 名人を唖然とさせる程の強さです。将棋ソフトは数年前に人間を超えてしまったと言われていますが、藤井五冠はまだ3割ほど勝てるそうです。
プロ棋士と将棋ソフトが戦う「電王戦」が話題になっていたのは、2010年代前半だったでしょうか。将棋とは無縁の私も、その結果がどうなるのかには注目していました。そして、「人間が勝つのはもう難しいかな」と感じたことも覚えています。
仮に人間を超えたのが2016年頃だとして、そこから約6年経ちました。計算機の処理性能はざっくり「2年で倍になる」と言われていますので、6年あればソフトの性能も8倍程度はアップしているはず。そんなソフト相手でもまだ「3割勝てる」というのはすごい話だ、と思います。
→ Day 1 後半に続く。
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